SSブログ

Chicano Soul [テックスメックス]

462.jpg

 テックスメックスのご案内第5節は、オルケスタといわれるひとつの様式が1960年代以降どのように展開したか、について象徴的なアーティストを取り上げ、その背景もながめつつ、紹介を試みてきました。

 その過程で、というかもっと以前から、わたしの頭のなかに漠然と思い描いていたアイデア(概念)があります。

 それはSan Antonioをひとつの軸として考え、San Antonioと、San Antonioからみて周辺の土地、たとえばDallas, Austin, Houston, Corpus Christiなどの都市の音楽とを比較すると、なにか音楽的な違いみたいなものが出てくるのではないか、ということです。

 本節で取り上げたアーティストの活動場所・地域を確認してみると、まず、Austinから北東に位置したTemple出身で、レコーディングは、最初Dallas、後にはおもにCorpus Christiなどの新興都市や周辺都市でレコーディングを行ったLittle JoeやJohnny Hernandez、Sugerland出身で、1970年前後は、Dallas-FortworthからRio Grande Valley周辺で活動し,さらにその後は拠点をAustinに移したRuben and Alfonso Ramosらがいます。そして、San Antonio出身としては、Houston をベースとしたHuey P. Moe のCrazy Cajunでレコーディングを行ったSunny Ozunaがいます。

 漠然とした印象を言えば、いまこの記事を書いている時点において、Conjunto にしろ、Orquestaにしろ、新しい流行(モード)を創出したのは、メキシコ音楽の伝統と素晴らしさに着目し、そこに米国音楽のエッセンスをブレンドしようとした、San Antonioからみて周辺の土地で活動していたアーティストたちであったということ、そして、San Antonioのアーティストは、戦前からの伝統を受け継ぐか、もしくは、他の米国諸都市と同じように巨大化した米国大衆文化の洗礼を受けた人々のどちらかであった、ということです。

 San Antonio出身のアーティストに関して、例えばConjuntoでいえば、Don Santiago Jimenezや彼の息子たち、Flaco Jimensez, Santiago Jimenez Jr.、さらにHenry ZimmerleやTrio San Antonioなどのアーティストからは、(New OrleansのDixieland Jazzにように)より古いスタイルを現在に伝える姿勢が感じられます。その一方で、Sunny Ozunaのように米国メインストリームの影響を強く受けたアーティストもSan Antonioにはいました。
 それに対して、Little Joe 、Tony De La Rosaなど、いわゆる天才と呼ばれるアーティストの多くが、San Antonio以外の土地から出てきている、というのもまぎれもない事実です。

 こうした印象は極めて漠然としたもので、厳密に検証すれば、反例も多々出てくるかもしれませんが、あるレベルまでにおいては当たらずとも遠からず、とも言えると思います。

 このような思いを巡らしながら聞くととても面白いCDが、San Antonioにおける米国メインストリームからの影響を強く受けたアーティストたちを集めたコンピレーションアルバム、1960年代San Antonioのレーベルを中心にしたシングル集、" Chicano Soul "です。

 このCDは、Westside Soundとして3枚、Texas Group Tresuresとして1枚がシリーズで出ており、その1枚目となります。

 全25曲収録。おそらくすべてシングル盤からのものだと思います。そして全曲英語で歌われています。

 レーベルは、Mictlan Book and Music(FTR RECORDS というクレジットもジャケット裏にあり)。コピーライト等のクレジットはなし。たぶんプライベートレーベルとかコレクターズレーベルのようなところから出されたものでしょう。ちなみに編集したのは、カリフォルニア、イーストLA出身のRuben Morina。チカーノ・カルチャーの研究者のようです。現在、解説付き輸入盤として国内盤発売中なのでご存知のかたも多いと思います。発売元はBarrio Gold Records、ディストリビュートはMusic Camp。

 http://www.m-camp.net/cgi_shop/shop/shop/shop_index.cgi

 このCDで取り上げているアーティストは以下のとおり。

 Sunny & The Sunliners,Sounds,Danny $ the Dreamers,Royal Jesters,Jesse & the Crystals, Playboys, Henry & The Kasuals, Little Jr. Jesse & the Tear Drops, Dimas III, Bill Sol, Spider & the Play Boys,Little Henry & the Laveers, Danny & the Tejanos, Joe Jama & the Royal Jesters, Sunglows, Dino Bazan & the Dell-tones,J.Jay & the Dell-tonesなどなど。レーベルは、sunglow, Teardrop, Clown, Geno, Satin, Key-loc, Cobra, Dynamic,Metro-dome,などなど。たぶんすべてサンアントニオのレーベル(だと思います)。

 以上のアーティストの多くははyoutubeにもアップされています(映像は少ない。歌と画像のみがほとんどです。Sunny & The Sunlinersは省略)。Youtubeにアップされることにより過去や現在のイメージが付加され、音楽を巡る状況を立体的に捉えられるような気分になります。


まずRoyal Jestersは以下のとおり。

http://jp.youtube.com/watch?v=-cAl5NnI5B4
http://jp.youtube.com/watch?v=yvue8g469zc


たぶんDimas III& the Royal Jesters
http://jp.youtube.com/watch?v=vPWQBNCwdy8

Dimas IIIことDimas Garza関連。
http://jp.youtube.com/watch?v=shYiVzVyjVM&feature=related
http://jp.youtube.com/watch?v=pVGbeAJdx6A&feature=related

Joe Jamaの1980年代の映像。
http://jp.youtube.com/watch?v=8G4Fgjt2I7k

Jesse & the Crystals1961年のヒット曲。彼らはhouston出身だそうです。

http://jp.youtube.com/watch?v=tQ-ne69kSzk

Henry & The KasualsのHenry PenaによるForever.

http://jp.youtube.com/watch?v=mBwR4rcstkY

この曲のオリジナルは"Please Mr. Postman"でおなじみのThe Marvellets。
http://jp.youtube.com/watch?v=1SRboZiWtuQ


 オリジナル曲以外では、Curtis Mayfieldの曲が2曲あります。

Falling in love with youのオリジナルはこちら。
http://jp.youtube.com/watch?v=MGTfHQk69zw

 きりがないので、これくらいにしておきます。

 ざっとこんな具合で、YoutubeにはChicano Soulの楽曲がかなりあります。映像ではなく、楽曲と画像の組み合わせが多い。


 このCDを聞いての印象は、全体的にはかなりゆったりとした、スローなバラードの楽曲が多いな、ということ。多くの曲でボーカルにエコーがかかり、気分は1950年代末から1960年代はじめのドゥーワップや初期ノーザンソウル。それこそCurtis Mayfieldたちが活躍し始めたころの時代からの影響が強い。

 これら収録曲がシングル盤で出ていたというからには、60年代という時代性を考慮すれば、営業的なターゲットとしてジュークボックスとラジオが念頭にあったことでしょう。Sunny & the Sunlinersの成功という先例を指摘するまでもなく、英語曲で、しかもラジオでヒットすれば、全米進出のきっかけになる、という思惑が関係者たちの頭の片隅にあったかもしれません。

 このCDのクレジットを確認してみると1963年ころから1970年ころまでの録音を収録してあるのですが、それにしては、こうした甘いバラードのシングルがよくも出され続けたものだ、という感が拭えません。70年ころの録音になると、このスタイルは少し時代遅れかな、という印象もあります。

 ただし、このコンピュレーションの編集者はカリフォルニア、イーストLA在住のチカーノ研究家なので、彼の感性のバイアスがこのCDに、かかっていることは否定できません。

 またこのCDに登場するアーティストたちの動向は、Doug Sahmと絡めても面白いかもしれません。昔、英国盤で出ていた同様のアルバム、"Border Town Jive"のライナーにも書いてあったように、Doug Sahmの次のアルバムに参加しているWestside Hornsの音は、このアルバムから聞こえてくるかもしれません、という表現が、もしかしたらこのCDにも当てはまるかもしれません。

 このCDは、San Antonioという都市の音楽の歴史を考えるとき、無視できないアルバムの一枚だといえるでしょう。




 
 









nice!(3)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 3

吾妻虎太郎

ベアトラックさん、niceありがとうございます。

by 吾妻虎太郎 (2008-06-26 07:29) 

吾妻虎太郎

takemoviesさん、はじめまして。niceありがとうございます。
by 吾妻虎太郎 (2008-06-26 10:07) 

吾妻虎太郎

deacon_blueさん、niceありがとうございます。
by 吾妻虎太郎 (2008-06-26 22:24) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

Little Joe(3)Steve Jordanの近況について ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。